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東京都青少年健全育成条例について考える

3 月 19th, 2011

平成22年12月22日に改正され,今年7月1日から施行される「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(東京都青少年健全育成条例)が「問題の多い改正」だとして出版業界を中心に話題となっている。 

角川書店ほかマンガの出版社が条例改正に反発し,都議会での議決に先立ち,抗議の意味で3月24日から27日に開催が予定されていた都主催の「東京国際アニメフェア」への出展を取りやめ,幕張メッセで同月26,27日に「アニメコンテンツエキスポ」を企画して注目を集めていた(両イベントは,ともに東日本大震災の影響で中止されている)。

 

問題とされている規定は,図書類等の販売等及び興行の自主規制を定める7条(の2号)で,要するに,「漫画,アニメーションその他の画像(実写を除く。)で,刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を,不当に賛美し又は誇張するように,描写し又は表現することにより,青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を青少年に販売し,頒布し,若しくは貸し付け,又は観覧させないように努めなければならないというものだ。

平成22年2月末の改正案では,マンガやアニメの登場人物を「非実在青少年」と分類し,性描写を規制する内容が盛り込まれたが,6月に否決。11月に「非実在青少年」の文言を削り,上記のかっこ書きの内容に修正され,可決された経緯があるようだ。

 

論点はいろいろとあるようだが,特に,この規定の「不当に賛美し又は誇張するように,描写し又は表現する」という行為がどのようなものを指すのか,規制範囲があいまいで,表現の自由に対する萎縮が懸念されるというのだ。創作の現場では,萎縮はすでに始まっているという。

 

そもそも,マンガの登場人物は架空の存在であって,権利・義務の主体とはならない。彼らが刑罰法規に触れる行為をしたとしても,権利を侵害される者(=被害者)はいない。彼らは,現実の世界で生活する我々とは違い,法規に縛られない,自由な存在だ(法規どころか自然法則すら超越する存在であり,彼らを縛るのは唯一,創作者の意思のみである)。マンガの読者は,マンガの登場人物が現実には存在しないこと,マンガで描かれている世界が(どんなに現実の世界と似ていたとしても)現実の世界でないことを分かっているはずであり,マンガの中で登場人物が現実の刑罰法規に触れる行為をしている(例えば,バトル漫画の主人公は傷害罪を犯している)からといって,自分が現実でやると刑罰法規に触れることくらい百も承知なのではないだろうか。 

マンガの中の世界を現実と同一視してしまうことが問題だ。

 

7条2号に該当するもののうち,施行規則で定める基準に該当するものを知事が不健全な図書類等として指定し,指定されたものを青少年に販売等した者が知事部局の職員から受けた警告に従わず,販売等をやめなかった場合に30万円以下の罰金に処せられることになるようだ(8条1項2号,9条,18条1項,25条)。改正案は,「慎重に運用すること」という付帯事項とともに可決されたという。表現の自由に対する過度に広範な規制にならないよう,施行後の運用を慎重にしてもらいたいところだ。

 

弁護士 横尾和也

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