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国際弁護士とはいえないが・・・(2)占有移転禁止仮処分

4 月 12th, 2016

不動産明渡請求訴訟を提起する前に、占有移転禁止仮処分という民事保全法23条に基づく保全処分を行うことがある。訴訟を提起した後、判決が出る前に不動産の占有者が被告以外の第三者に変わってしまった場合、判決に基づく明渡の強制執行ができない。しかし、上記の仮処分を裁判所に発令してもらっておけば、その時点での占有者が対象不動産の占有者として固定されるので、同人を被告として明渡請求訴訟を提起すれば良い。この仮処分は、占有者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、特定せずに申立てることもできる(民事保全法25条の2)。

占有移転禁止仮処分を申し立てる場合は弁護士費用を上乗せしてもらうことになるうえ、仮処分発令時に供託金(家賃の2か月分程度。占有者を特定せずに申立てた場合は高めになることが多い)と発令後に占有者を固定するために執行官に現地に行ってもらうことになるのでその費用(占有者不在の場合など、時によっては鍵屋の費用も)が必要になる。しかし、マンスリーマンション等の用途に用いる目的で、オーナーが物件管理会社に建物を賃貸し、その管理会社が使用者に転貸するケースでは、建物の占有者が次々と変わることは珍しくなく、オーナーが建物の占有者に対して明渡訴訟を提起する場合、占有移転禁止仮処分は必須だと言ってもよい。

先日、上記のようなケースで、管理会社が多額の家賃を滞納したため、オーナーから依頼を受けて管理会社に賃貸借契約を解除する旨の通知を内容証明郵便で送付し、占有移転禁止仮処分を申し立てた。賃借人に建物の使用権原がなくなれば、転借人にも建物の使用権原がなくなる(親亀がコケれば子亀もコケる)。管理会社が現在の転借人の情報を頑なに教えようとしなかった等の事情もあり、占有者を特定せずに申立てたところ、無事仮処分が発令され、執行のため、執行官、鍵屋とともに現地に赴いた。
昨今、街中で観光客と思しき外国人を見かけない日はないと言ってもよいくらいである。外国人観光客の予約が殺到し、都心のホテルは予約を取ることが難しくなっているという。賢明な方はもうお分かりであろう。マンスリーマンションに誰が居住していたのか・・・。

ドアを開けると、「I can’t speak Japanese…」ときた。占有移転禁止仮処分を申し立てた経緯など、日本語ですら分かりやすく説明することが難しいのに英語で説明できるはずはなく、テンパってしまって単語レベルの会話すらできなかった私の隣で執行官は「I am a marshal…Osaka district court…」と名乗り、英語で事情を聴き出しておりさすがと感心したものだ。執行官と占有者の会話を横で聴きながら、「tourism」「temporary」という単語をかろうじて聴き取ることができたことから、どうやら観光で一時的に利用しているだけであることが分かり、パスポートを見せてくれたことから、占有者の特定もできた。帰国する日程もかろうじて聴き出すことができたので、帰国したタイミングを見計らって管理会社が占有者であるとして再度占有移転禁止仮処分を申し立て、この件は無事解決に至った。

ところで、執行官のことを英語で「marshal」というのをどのくらいの人が知っているのでしょうね…。また、marshalがどんな仕事をしているのか知っている人はどのくらいいるのでしょうか。おそらく私もmarshalの一味だと思われていたはずなのですが、上記の占有者の方に去り際に「Have a good trip!」と言ったところ、「Are you policemen?」と返されてしまいました。
・・・かように仕事で外国語を駆使することは難しいと思い知った次第です。

弁護士 横尾和也

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国際弁護士とはいえないが・・・(1)外国法事務弁護士

4 月 12th, 2016

テレビなどで国際弁護士という肩書が用いられているのを見かけることがあるが、実際にそのような名称の資格は存在しない。ウィキペディアによれば、
1.日本を含む複数の国や地域の弁護士資格を有する者
2.弁護士資格は日本国外のもののみであるが、日本に居住・就業している者
3.日本の弁護士資格のみを有するが、職務や経歴上で外国や外国企業との関係が深い者
というパターンがあるらしい。


外国弁護士(外国において法律事務を行うことを職務とする者で弁護士に相当するもの)のうち特定の要件を満たす者を、法務大臣の承認を得て日本弁護士連合会に登録することによって、原資格国法に関する法律事務を行うことができる「外国法事務弁護士」という制度はあるが、外国法事務弁護士は上記のパターンのうち2しか含まれておらず、いわゆる国際弁護士とイコールではない。
ちなみに、外国法事務弁護士は、日本の弁護士資格がなくても日本国内において弁護士としての職務を行うことが認められるが、その職務範囲は原則として原資格国法に関する法律事務に限定されており、日本国内での民事・刑事訴訟等を行うことはできない。


私はといえば、事務所全体では外国人の事件を取り扱うことがあるものの、恥ずかしながら英語でのコミュニケーションに自信がないため他の弁護士に担当してもらうことでなるべくその種の事件には関わらないようにして(逃げ回って)きたので、国際弁護士と名乗ることはとうていできない。


しかし、昨今、経済社会のグローバル化、LCC(格安航空会社)の普及、円安等の影響なのか、外国人を街中で見かけない日はないといってもよいくらいになってきた。つい先日、平日の昼間に大阪城公園の近くに用事があったため、花見がてら大阪城公園の敷地内を散歩でもしようかと考えて立ち入ったところ、日本人を探す方が難しかったくらいだ。
外国人から道を聞かれることもなぜか多い(話かけやすいのか?)。国際弁護士とはいえないからといって、「I can’t speak English.」で済ますわけにはいかなくなってきた。


このように、英語でのコミュニケーションから逃げ回っていた私ではあるが、「英語くらいは話せないといかんかな~」と痛感した事件にここ数か月で立て続けに遭遇した。しかも、これらの事件は、市民からの相談でも出て来そうな話ばかりである。
もはや国際弁護士ではなくても、英語くらい話せて当たり前の時代になりつつあるのかも知れない(事件を紹介していきたいところだが、前置きが長くなってしまったので次回に続く)。

弁護士 横尾和也

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