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訴因の特定と起訴状朗読

3 月 26th, 2011

刑事訴訟法256条3項には「公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」と規定されている。

 
一般人向けの説明をすると,公訴事実というのは,刑事裁判の冒頭手続きで,裁判官が被告人に名前や生年月日,住所,本籍,職業を聞いて人違いでないかどうかを確認(人定質問)した後,検察官が裁判官から「起訴状を朗読して下さい。」と言われ,読み上げるものだ。

裁判所に対して審判の対象を限定し,被告人に対して防御の範囲を示すため,「できる限り日時,場所及び方法を以て・・・特定」することになっている訳だが,先日の刑事裁判で,こんなことがあった。

 
無修正の違法わいせつDVDを販売していたとして,DVD店とDVD製造業者が一斉摘発され,わいせつ図画販売目的所持被告事件で起訴されたDVD店の店長の弁護人として出廷していた事件で,相被告人(店長と従業員が複数起訴されていた)の1人が公訴事実を否認した。そして,その弁護人は,公訴事実の記載のうち,「わいせつDVD『・・・タイトル名・・・』等50枚を所持し」という部分の50枚が具体的に特定されていないということで,検察官に釈明を求めた。

 
これがもし特定されていないということになると,検察官は,他の49枚のタイトルも朗読しなければいけないということになる。

公判担当の検察官は,若い女性の検事だ。わざとやっているのか?とも思ったが,否認している被告人にとっては,所持した覚えもないDVDを所持していたとして罪が重くなるのではたまったものではない。

 
検察官の対応は,「50枚は,その場にあったDVD(一斉摘発によって押収されたDVDは,合計24万枚にものぼるという)をランダムに抽出したもので,公訴事実の特定としては等50枚という記載で十分と考える。具体的なタイトルについては,検察官請求証拠の内容を見れば分かる(から,被告人の防御に支障はない)。」といった感じのものだった(はっきりと覚えていないが)。
確かに,私が弁護している店長の関係で検察官から請求されている証拠を見ると,タイトルが全部挙がっており,防御に支障はなさそうだ。わいせつDVDのタイトルをいちいち記載して朗読するのも嫌な感じがする(傍聴人の中には喜ぶ者もいるかもしれないが・・・)。裁判長は,検察官のこの対応に対し,「裁判を続けます。」という反応だったので,特定としてはこれで十分ということなのだろう。

 
それにしても,特定のためとはいえ,少なくともわいせつDVDのタイトルを1つは朗読しなければならないことになるのだから,検察官もつらいですね・・・。

 

弁護士 横尾和也


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