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オプション売り取引の危険性

12 月 29th, 2011

皆さんは,金融商品の一つであるオプションについて,どのくらいご存知だろうか。

オプションとは,目的物を,一定期間後の満期日か,一定の条件が満たされた時点で特定の価格(権利行使価格)で買う,もしくは売る権利のことだ。買う権利のことを「コール・オプション」,売る権利のことを「プット・オプション」という。なお,権利の対価は「プレミアム」と呼ばれている。

今年の3月11日の東日本大震災の発生とそれに引き続く福島原発事故の影響で日経平均株価が急落したことによって,プット・オプションの売り取引で信じられない額の損失を出してしまった者が多数いるという。私の理解によれば,そのカラクリは以下のような感じだ。

 

プット・オプション取引における目的物(今回のは日経平均株価=日経225)の権利行使価格を6000円代に設定する「ディープOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)」では,東日本大震災が発生する前の日経平均株価が10000円程度で推移していたから,短期間に日経平均株価が7000円以下になることが期待できない状況だということで,満期日が1~2ヶ月先に設定されているショート・オプション1権利のプレミアムは5円ほどであった。

満期日に日経平均株価が権利行使価格以下になっていなければ,オプションを行使する者など誰もいないので,売り手はオプションを0円で買い戻し,プレミアムの分の利益を確定することができる。オプションは,株価が大きく変動しなければ,満期日に近づけば近づくほどプレミアムが下がっていく。オプションの売主は,満期日より前に買い戻して売ったときとの差額分の利益を確定することもできる。

 

とすると,ディープOTMのショート・プット・オプションの売り手は,利益を獲得し続けることになるかのようにも思える。1権利あたりの利益は確かに少ないが,証券会社に証拠金を預けることで,プレミアムに1000円を乗じた額を1単位として取引をすることができる(「レバレッジ」と呼ばれる)ので,一度に100単位、もしくは1000単位を取引すれば,数100万円の利益を獲得することも夢ではない。

このような売り手の戦略は,確実に利益を得られる方法だと思われるかもしれないが,この戦略は,金融取引の世界は全てゼロ・サム・ゲームであることを見過ごしている。この世界には,リスクなしに必ず勝てる戦略などないのだ。

この戦略は,株価が暴落した場合,プレミアムが売ったときの額を大きく上回る危険性を抱えており,取ってはならない戦略だ。というのは,オプションは株価変動のブレの大きさ(「ボラティリティ」と呼ばれる)が大きいほど,プレミアムが上がるという特徴も持っているからだ。緩やかに株価が下降する,上昇するといった場合はボラティリティは0に近いが,突然暴落した場合にはボラティリティは跳ね上がる。

株価が暴落することなんてめったにないのでは?というのも素人考えである。専門家によれば,日経225が1000円程度下がることは3年に1度ほどあるという。取引所の1年間の取引日数は220日程度だから,これは交通事故に遭うよりも遥かに高い確率だ。

 

損失がとんでもない額になってしまうカラクリは,上記の「ボラティリティ」に加え、証券会社との契約で設けられている「値洗い」というシステムにもある。

値洗いとは,立会時間の終了時点(日中立会だと15:15)での売買値段で決済した場合に損失が出るトレーダーに対して追加の証拠金を要求し,支払えないトレーダーにはその日の最終売買値段で強制決済して損失を確定させるというものだ。強制決済を防ぐためには,損失をカバーできる程度の証拠金を上積みしなければならず,これを「追い証」と呼んでいる。

値洗いは,(トレーダーから回収が不可能になるほどの)証拠金を大きく上回る損失が出てしまうことを防ぎ,市場の安定性を保つためのシステムである。

 

今回,東日本大震災の関係で日経平均株価が急落したことでボラティリティが跳ね上がり,ディープOTMのショート・プット・オプションのプレミアムが成行注文ではありえない額に跳ね上がってしまったようだ。地震の発生したのは立会時間の終了時間の30分程前だ。

ニュースを聞いて直ぐに対応できなかったトレーダーは値洗いによってとんでもない高額の追い証を上積みするか,成行注文ではありえない高額での決済(買戻し)を強いられることになった。

3月15日での買戻し価格は1権利あたり500円を超えていたとのことで,数100単位のオプションを売っていたトレーダーは,強制買戻しにより1000万円以上の損失が確定してしまったという訳だ。

 

破産法では,252条1項4号において「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」を免責不許可事由として挙げており,投資によって多額の損失を受けた者は,原則として,破産手続きを申立てても,免責が許可されないということになる。

オプション取引をやってみたいと思っている方は,売り取引にこのような危険が潜んでいることを十分に理解し,素人の域を出るまでは,売り取引には手を出さないよう肝に銘じておくべきであろう。

 

弁護士 横尾和也


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