判決は,言い渡されたらすぐに確定する訳ではない。当事者には,その判決に対して不服がある場合に上訴して上級裁判所に再度判断を仰ぐことのできる権利があり,上訴期間にその権利を行使した場合,判決は確定しないことになる。
以下では,ややこしくなるので,第一審の判決の確定を念頭において話を進めることにする。
上訴期間の起算時期は刑事と民事で異なり,刑事事件の場合は言い渡しの日の翌日から起算して14日(刑事訴訟法358条),民事事件の場合は判決書が送達された日の翌日から起算して14日(民事訴訟法285条)となっている。この間に上訴しなかった場合,判決は自然確定する。
判決書を受け取る日を遅らせることが出来れば,民事の場合はその分確定を遅らせることが出来るということになる。刑事では,判決期日への出頭が義務付けられている(刑事訴訟法284条ないし286条)から,上訴せずに確定を遅らせることは出来ないということになる。
ここで「自然」という言葉を使ったのは,上訴権放棄(要するに,判決を受け入れるので,早く確定させてくれということ。刑事訴訟法の条文では「上訴の放棄」となっている)をすることにより,早く確定させることも出来るからだ。
民事と刑事で上訴権放棄のやり方について規定の仕方が異なっていることは興味深い。民事では「裁判所に対する申述によってしなければならない」(民事訴訟規則173条1項)と規定されている一方,刑事では「書面でこれをしなければならない」(刑事訴訟法360条の3)となっている。
判決内容に納得し,刑期を務めて一日でも早く社会復帰したいと願う者や,出入国管理及び難民認定法違反で有罪判決を受け,故国への強制送還を待つ者(強制送還の手続きは判決確定後に行われる)等は,上訴権放棄をするメリットがある。私は,出入国管理及び難民認定法違反の被告人を弁護することになった場合,初回の面会で必ずこの制度について説明することにしている。
また,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する判決に対する上訴権の放棄はできないことになっている(刑事訴訟法360条の2)が,これは,早く判決が確定したところで,その分早く社会復帰できることにはならないし,重い刑を科される判決の内容はそう簡単に受け入れられるものではないという配慮が働いているのだろう。
弁護士 横尾和也