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建物明渡の強制執行

1 月 25th, 2012

店子が家賃を数か月分滞納しているにもかかわらず支払いをしようとせず,また,賃貸物件からも出て行こうとしないとき,家主は賃貸借契約を解除し,店子に対して建物明渡を請求することが出来る。

ちなみに,店子が賃料を滞納することはあっても数ヵ月後には滞納を解消している等,家主と店子の信頼関係がいまだ破壊されるに至っていない場合は,家主から賃貸借契約を解除することが制限されており,これは「信頼関係破壊の法理」と呼ばれている。

 

契約解除を通告しても店子が任意に賃貸物件から出て行ってくれない場合,建物明渡請求訴訟(ついでに滞納賃料と明渡までの賃料相当損害金の請求も行う)を提起して明渡認容の判決を取り,判決に基づいて強制執行しなければならない。判決に基づかない「自力執行(じりきしっこう)」は法が禁じており,店子から不法行為に基づく損害賠償を請求されたり,店子の所有物を無断で処分すれば窃盗罪に問われる虞がある。

訴訟を提起すると,被告となった店子が裁判所に出頭し,裁判所での話合い等の結果,任意に出て行ってくれることもあるが,店子から,出て行く際に残置物について所有権を放棄してもらい,鍵の引渡しを受け,完全に明渡を完了した旨の念書等を取った場合でなければ,費用はかかるが,後々店子から残置物を無断で処分された等の言いがかりをつけられないように,裁判所を通じた強制執行の手続を取っておいた方が良い。

 

強制執行のために執行官とともに賃貸物件に赴くと,たいてい家財道具がそのまま置かれている。中には,ゴミ屋敷と呼べる状態になっていることもあり,残置物の撤去,処分,(物によっては)保管の費用がかかる。強制執行にかかる費用は,民事執行法42条1項で店子の負担となるのが法の建前だが,実際には家主が立て替える形で負担することとなってしまう。かかる費用のイメージとしては引越しの費用(トラック,人工)に執行官立会い費用(5~7万円程度)が加わる感じだ。残置物が多い場合,大きな物がある場合や金庫等開錠の手間がかかる(鍵屋さんに来て貰わなければならなくなる)場合,50万円を超えてしまうこともある。

 

1度目に立ち入った場合は予告だけを行い(ドアを開けて入ったあたりの見やすい場所に予告書を掲示する),3~4週間の期間を置いた後に2度目の立ち入りを行い,明渡を「断行」する。予告の際にすでに「がらんどう」の状態で,店子が明渡したことが明らかな場合,その時点で断行まで完了したことにすることもある。

断行が完了したら,鍵は違うものに代えておいた方が良い。同じ鍵をそのまま使用して店子が持っていた鍵で断行後の物件を再度占有した場合,住居(建造物)侵入の刑事事件にはなるが,民事的には,明渡訴訟をもう一度やり直さなくてはならなくなる。

 

残置物の中から現金が見つかることがあるが,店子が(法人ではなく)個人の場合,現金66万円までは差押禁止財産となるので,動産執行して滞納家賃に充当することができないのが歯がゆいところだ。

撤去した残置物は,店子に取りにくるよう連絡するが,連絡がつかなかったり,取りに来なかった場合は換価価値のあるものは競売し,保管費用や(価値のないものの)処分費用と相殺することになる。おおむね2万円以上の換価価値がないと見込まれる場合,競売費用の方が高くついてしまうため,処分することになるようだ。

 

弁護士 横尾和也

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プット・オプション売り取引の危険性

12 月 29th, 2011

皆さんは,金融商品の一つであるオプションについて,どのくらいご存知だろうか。

オプションとは,目的物を,一定期間後の満期日か,一定の条件が満たされた時点で特定の価格(権利行使価格)で買う,もしくは売る権利のことだ。買う権利のことを「コール・オプション」,売る権利のことを「プット・オプション」という。なお,権利の対価は「プレミアム」と呼ばれている。

今年の3月11日の東日本大震災の発生とそれに引き続く福島原発事故の影響で日経平均株価が急落したことによって,プット・オプション売り取引で信じられない額の損失を出してしまった者が多数いるという。私の理解によれば,そのカラクリは以下のような感じだ。

 

プット・オプション取引における目的物(今回のは日経平均株価=日経225)の権利行使価格を6000円代に設定する「ディープOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)」では,東日本大震災が発生する前の日経平均株価が10000円程度で推移していたから,短期間に日経平均株価が7000円以下になることが期待できない状況だということで,満期日が1~2ヶ月先に設定されているショート・オプション1権利のプレミアムは5円ほどであった。

満期日に日経平均株価が権利行使価格以下になっていなければ,オプションを行使する者など誰もいないので,売り手はオプションを0円で買い戻し,プレミアムの分の利益を確定することができる。株価が変動しなければ,満期日に近づけば近づくほどプレミアムは下がっていくから,満期日より前に買い戻して売ったときとの差額分の利益を確定することもできる。

したがって,株価が暴落することさえなければ,ディープOTMのショート・プット・オプションの売り手は,利益を獲得し続けることになる。1権利あたりの利益は確かに少ないが,証券会社に証拠金を預けておけばその数倍の取引をすることができるので,一度に数万権利を取引すれば,数万円の利益を獲得することも可能だという訳だ。このような売り手の戦略は,低リスクで利益を得られる方法だと思われるかもしれないが,万が一,株価が暴落した場合,プレミアムが売ったときの額を大きく上回るというリスクを抱えている。

 

損失がとんでもない額になってしまうカラクリは,証券会社との契約で設けられている「強制ロスカット」というシステムにある。強制ロスカットとは,一定割合以上の損失が発生した場合,トレーダーの意思とは無関係に決済して損失を確定させ,トレーダーの損失を食い止めてくれるというものだ。強制ロスカットを防ぐためには,損失をカバーできる程度の証拠金を上積みしなければならず,これを「追い証」と呼んでいる。

今回,東日本大震災の関係で日経平均株価が急落したことで,ディープOTMのショート・プット・オプションのプレミアムが成行注文ではありえない額に跳ね上がってしまったようだ。そこで,強制ロスカットのシステムが発動し,売り手はとんでもない高額の追い証を上積みするか,成行注文ではありえない高額での決済(買戻し)を強いられることになった。3月15日での買戻し価格は1権利あたり500円を超えていたとのことで,数万権利を取引していた者は,強制買戻しにより1000万円以上の損失が確定してしまったという訳だ。

 

破産法では,252条1項4号において「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」を免責不許可事由として挙げており,投資によって多額の損失を受けた者は,原則として,破産手続きを申立てても,免責が許可されないということになる。

但し,破産法252条2項では,1項に掲げる事由に該当する場合であっても,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが出来ることになっているから,上記のような経緯でとんでもない額の損失が出た場合は,投資の頻度や目的も考慮されるであろうが,強制ロスカットのシステムにも問題があるということで,免責を許可してもらえるのではないだろうか。

 

弁護士 横尾和也

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法教育出張授業再び

11 月 23rd, 2011

今年も府内の高等学校へ出張授業に行ってきた。

今回は,「少年事件」,「男女間の法律問題」,「家族・親子の法律問題」,「刑事事件と裁判員裁判」,「労働問題」,「交通事故」,「消費者問題(悪徳商法等)」というテーマで授業を行う旨,あらかじめ学校にアナウンスし,テーマごとに教室を分けてもらい,聴講を希望する生徒が集まるというやり方だ。

 

私が担当したのは「少年事件」だったが,教室が2部屋割り当てられたのは,これと「男女間の法律問題」の2つだったことからすると,それだけ生徒に関心の高いテーマだということなのだろう。

 

成人が犯罪を犯すと刑罰(死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留,科料)の対象になることに対し,少年は原則として保護処分(保護観察,少年院送致等)の対象になることを説明し,少年事件の流れについてざっと説明した後,実際に今までに経験した少年事件の事案を抽象化して話すと,興味を持ったらしく,話の合間に合いの手を入れてくる生徒もいた。

 

知り合いや友人が少年事件に関わったことがあるのか,合いの手の中には,「ホゴカン(保護観察)」,「カンベ(少年鑑別所)」等の単語が出たりもしたが,これを機に,「そんな言葉聞いたことあるな~」という程度の知識から,これらの単語が少年事件の手続の中でどのような意味をもっているのか理解するところまでいってくれていれば,講師冥利に尽きるというものだ。

 

弁護士 横尾和也

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判決書の作成と送達

10 月 26th, 2011

民事訴訟法252条では,「判決の言渡しは,判決書の原本に基づいてする。」と規定されている。民事訴訟法254条1項に定められている例外(被告が争わず,原告の請求を認容するとき)を除けば,民事事件の判決は,判決書が出来た状態で,裁判官がそれを朗読し,その判決書は言渡しの日から二週間以内に送達されることになっている(民事訴訟規則159条1項)。

 

一方,刑事訴訟法には,上記のような民事訴訟法の規定に相当するものがなく,刑事事件では,「判決書は,判決宣告の際に必ずしも作成せられていることを要しない(最判昭和25年11月17日・刑集4・11・2328)」とされている。

判決書の送達も当然になされるわけではなく,判決書謄本の請求をしなければならず,1頁につき60円を支払わなければならない。判決書を判決宣告時に必ずしも作成しておく必要がないことと関係しているのであろうが,謄本が送達されてくるのも判決言い渡しから2週間以内とは限らない。調書判決だと,判決が確定してから作成することになっているようだ。

 

ところが,私の担当した刑事の否認事件で,有罪の判決宣告日から3ヶ月以上経っても判決書が送られてこなかったことがあった(判決書謄本の請求は判決期日に行っている)。

上記で引用した裁判例では,判決宣告時に判決書を完成させていなかったことが違法ではないと判断されているものの,「判決の主文は,言渡の際に文書に記載されていたものということができる。」と認定したうえでの判断であるし,また,「もとより判決は,その宣告するところと判決書に記載するところと異るようなことがないように,判決宣告の際に判決書の作成せられていることが望ましいことであり,殊に本件のように判決宣告後四〇日を経て判決書が作成せられるようなことは,妥当とはいえない」とも述べられている。

判決宣告日の翌日から14日以内に上訴するか否かを決めなければならない関係で大いに問題があると思うので,刑事事件の判決書の作成時期と送達時期も,民事事件と同じように統一してもらいたいものだ。

 

弁護士 横尾和也

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不出頭でも裁判は進む

9 月 19th, 2011

「裁判になったら,毎回法廷に出なければいけないのですか?」と聞かれることがある。

実は,民事事件では,常に裁判所まで出頭しなければいけないかというと,そうでもない。一方,刑事事件で出頭せずにすむのは,軽微事件など例外的な場合に限られる。今回は,民事事件に絞って出頭せずにすむ場面を紹介しよう。

 

まず,(民事の)ほとんどの当事者は,判決期日にわざわざ法廷まで来ない。民事事件の判決は,当事者が出頭しなくても言い渡される(民事訴訟法251条2項)。当事者席に誰もおらず,裁判官,書記官と事務官しかいない法廷でも,裁判官は判決主文を読み上げている。

 

次に,民事事件では,最初にすべき口頭弁論期日に限り,どちらかが出頭しなくても,答弁書や準備書面等さえ提出しておけば,出頭してその内容どおり陳述した(書面に書いたとおりの発言をした)ことにしてくれる(民事訴訟法158条)。特に被告側だと,第1回の口頭弁論期日は都合などお構いなしに一方的に指定されているから,これを利用して1回目は不出頭のまま乗り切ることも多い。

但し,書面を出さずに出頭もしなかった場合,相手の主張を認めたことになってしまう(民事訴訟法159条1項,3項本文)ので,注意が必要だ。

なお,簡易裁判所では,続行期日でもその扱い(民事訴訟法277条)だから,片方の当事者が出頭してくれれば,もう片方の当事者は出頭しないまま書面を出し続けて手続きを進めることも可能だというわけだ。

 

争点及び証拠の整理を行うため,弁論準備手続に付された場合,その手続きは,テレビで見るような法廷ではなく,裁判所の打合せ室(長テーブルがあり,原告と被告が向かい合わせに座る)で行われる。

弁論準備手続は,当事者が遠隔地に住んでいる場合など相当だと裁判官が判断したときに限られるが,当事者双方と裁判官が同時に会話できるトリオフォン(三者通話電話)というものを利用して電話会議で進めることもできる(民事訴訟法170条3項)。片方の当事者が出頭してくれれば,もう片方の当事者は出頭せず,裁判所から電話が架かって来るのを待つだけでよい。

ただ,このトリオフォンでの通話は,相手が早口だったり声が小さかったりするとかなり聞き取りにくいときがある。遠隔地といっても,私の経験上,大津地裁,和歌山地裁,奈良地裁からは,出頭してくれと言われているので,近畿圏内の裁判所にとって,大阪在住の者は遠隔の地に居住する者にはあたらない運用なのかもしれない。

 

弁護士 横尾和也

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当番弁護士

8 月 24th, 2011

日本国憲法34条には,「何人も,・・・弁護人に依頼する権利を与えられなければ,抑留又は拘禁されない」と規定されている。一方,日本国憲法37条3項を見てみると,「刑事被告人は,・・・弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。」と規定されている。

これは,憲法の規定上,いわゆる国選弁護人は,刑事事件の「被告人」として起訴されてしまった後にしかつけてもらうことが出来ず,犯罪を犯したとの嫌疑をかけられて逮捕され,「被疑者」となってしまった時点では,弁護人を依頼する権利があることを告げられるだけということを意味する。

逮捕されてしまった段階では国選弁護人をつけてもらうことは出来ないが,私選弁護人を依頼する資力(財力)があれば,弁護人を選任することができるというわけだ。

 

憲法上は上に書いたとおりなのだが,弁護人をつけたいが資力がない場合,起訴されるまで弁護人がつかないのかというと,そうでもない。実は,一定の犯罪(死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件)に限定されてはいるが,勾留状が発せられている段階で,国選弁護人をつけてもらうことができる(刑事訴訟法37条の2)。

逮捕された後,勾留請求までには最大72時間という制限時間がある(刑事訴訟法205条2項等)。つまり,一定の犯罪に該当する場合は,最長72時間(3日)我慢すれば,国選弁護人をつけてもらえるというわけだ。ちなみに,起訴前の勾留期間は勾留請求の日を含めて20日(原則10日だがさらに10日延長可能。刑事訴訟法208条)だから,一定の犯罪に該当しない場合,逮捕されてしまうと最大23日,弁護人がいない状態で取調べを受けることになる。

 

逮捕された後の手続きや,黙秘権・供述調書への署名捺印を拒否できる権利といった被疑者の権利をよく理解しておくことは,被疑事実をそのまま認める場合であっても重要であるところ,私選弁護人をつけるほどの資力がない場合,その機会がないということになる。これが,冤罪の原因になるとして,多くの学者や実務家から問題視されていた。

 

前置きが長くなったが,当番弁護士は,その問題を解決するために日本弁護士連合会によって提唱されてできた制度だ。

逮捕された際に,警察の人に「当番の弁護士を呼んでください。」と言えば,その日に待機している当番の弁護士が,弁護士会から連絡を受け,1回目だけ無料で面会に行き,アドバイスを行うことになっている。逮捕された本人以外でも,家族・友人・会社の同僚など,誰でも依頼できる(大阪弁護士会の当番受付電話番号は06-6363-0080)。休日や夜間でも,留守番電話で対応し,当番の弁護士に連絡される。

この制度は,私選弁護人を選任するだけの資力があるが,弁護士の知り合いがいない人も用いることができ,平成18年10月からは「私選弁護人紹介制度」と名を変えている。

 

当番でかけつけた弁護士が気に入り,その場で事件を依頼する場合は,私選弁護人として選任することになる。私選で依頼するだけの資力がない場合でも,一定の犯罪で勾留された段階や,そうでない場合に起訴された段階で,その弁護士がそのまま裁判所から候補者として打診され,国選弁護人としてつくことになることも多いようだ。

 

弁護士 横尾和也

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仮監での接見

8 月 2nd, 2011

大阪地方裁判所では,刑事裁判の直前や直後,裁判所の地下で待機している被告人と「仮監」というところで接見(面会)することができる。

 

被告人が遠方に勾留されている場合や,裁判前や裁判後に少しだけ確認しておきたいことがある場合には,非常に便利なので,私も今までに何度か仮監で接見したことがある。

被告人が拘置所に勾留されている場合は特に事前の手続きは不要で,直接地下に行って申込すれば良い。被告人が警察署の留置施設に勾留されている場合は,事前に裁判所で「指定書」という書面をもらって来なければならないので,少々面倒くさい。

 

仮監の接見室は,真ん中をアクリル板で仕切られている,部屋というより小さなスペースで,全体でも4人入れば満員になってしまうくらいの広さしかない。したがって,弁護人が2人で接見にいくと,こちら側はギュウギュウになってしまう。

被告人とは,通常,アクリル板を挟んで差し向かいで話をすることになるのだが,実は,執行猶予付きの判決を受けた後に被告人に会いに行くと,アクリル板を介さずに話をすることができる。

 

先日,執行猶予付きの判決の言い渡しがあった後,被告人が私に何か話したいことがあるような顔をしながら法廷の奥の扉から出て行ったのを見て,仮監での接見を申し込んだ。てっきり執行猶予付きの判決を受けた後用のアクリル板がない部屋(少年鑑別所だとそのような面会室がある)があるのだと思っていたら,いつもの場所に案内され,いつもはアクリル板の向こうに現れる被告人がこちら側にやって来た。

 

そんなことで,2人しか入れない狭いスペースで被告人と向かい合わせで話をすることになったのだが,クーラーも効いていないところなので暑くて汗はダラダラ出るし,被告人との距離が近すぎて妙に気恥ずかしかった。一方の被告人は,アクリル板を介さずに私と会えて「これで自由になれるんだ」と実感していたようで,ニコニコしながら話をしていました。

 

弁護士 横尾和也

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上訴権放棄

7 月 20th, 2011

判決は,言い渡されたらすぐに確定する訳ではない。当事者には,その判決に対して不服がある場合に上訴して上級裁判所に再度判断を仰ぐことのできる権利があり,上訴期間にその権利を行使した場合,判決は確定しないことになる。

以下では,ややこしくなるので,第一審の判決の確定を念頭において話を進めることにする。 

 

上訴期間の起算時期は刑事と民事で異なり,刑事事件の場合は言い渡しの日の翌日から起算して14日(刑事訴訟法358条),民事事件の場合は判決書が送達された日の翌日から起算して14日(民事訴訟法285条)となっている。この間に上訴しなかった場合,判決は自然確定する。  

判決書を受け取る日を遅らせることが出来れば,民事の場合はその分確定を遅らせることが出来るということになる。刑事では,判決期日への出頭が義務付けられている(刑事訴訟法284条ないし286条)から,上訴せずに確定を遅らせることは出来ないということになる。 

 

ここで「自然」という言葉を使ったのは,上訴権放棄(要するに,判決を受け入れるので,早く確定させてくれということ。刑事訴訟法の条文では「上訴の放棄」となっている)をすることにより,早く確定させることも出来るからだ。

民事と刑事で上訴権放棄のやり方について規定の仕方が異なっていることは興味深い。民事では「裁判所に対する申述によってしなければならない」(民事訴訟規則173条1項)と規定されている一方,刑事では「書面でこれをしなければならない」(刑事訴訟法360条の3)となっている。 

 

判決内容に納得し,刑期を務めて一日でも早く社会復帰したいと願う者や,出入国管理及び難民認定法違反で有罪判決を受け,故国への強制送還を待つ者(強制送還の手続きは判決確定後に行われる)等は,上訴権放棄をするメリットがある。私は,出入国管理及び難民認定法違反の被告人を弁護することになった場合,初回の面会で必ずこの制度について説明することにしている。 

 

また,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する判決に対する上訴権の放棄はできないことになっている(刑事訴訟法360条の2)が,これは,早く判決が確定したところで,その分早く社会復帰できることにはならないし,重い刑を科される判決の内容はそう簡単に受け入れられるものではないという配慮が働いているのだろう。 

 

弁護士 横尾和也

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弁護士バッジ

6 月 25th, 2011

「弁護士バッジの色って,金と銀の2種類があるんですか?」と聞かれることがある。

 

実は,私も,司法修習生だった頃,修習先でお世話になっていた指導担当弁護士のバッジが銀色で,同じ事務所の新人弁護士のバッジが金色だったのを見て,指導担当弁護士に同じような質問をしたことがあった。

「弁護士バッジは銀製の地に金メッキをしとるだけやから,使ってるうちにメッキが剥げてくるんや。」と教えてもらい,なるほどと思ったことを覚えている。また,日本弁護士連合会に数万円を払えば,銀製のバッジに代えて,純金製のバッジを支給してもらえるらしい。

だから,「金と銀の2種類ある」というのは,ある意味正しいということになる。

 

純金のバッジをしていたり,紛失したために再支給してもらった場合という例外はあるものの,「銀のバッジをしていれば新人ではないという推定がはたらく」という人もいる。

常に背広につけていたとしても,積極的に擦ったりしなければそう簡単にメッキは剥げないのではないか?と思うのだが,確かに,ベテランの弁護士のバッジを見ると,銀色になっていることが多いのも事実だ。

そのため,弁護士の中には,金メッキが早く剥げるように,小銭入れの中に入れて持ち歩く人もいるという噂を聞いたことがあるが,私の周りに実践している人はいない。

 

弁護士の中には,バッジを裏返しにしてつけている人が実に多いが,私は,バッジを裏返しにしてつけていることもメッキが剥げる原因の一つになっているのではないかと思っている。裏返しにしているせいで,バッジが背広の布と擦れ,徐々にメッキが剥げているのではないだろうか。

私はといえば,法廷の中や警察署,拘置所以外では着用する必要もないので,普段は支給されたときについてきた小さな桐の箱の中に入れて持ち歩いている。おかげでバッジは金ピカのままだ。

 

裁判所の近くを歩く際には,弁護士とすれ違うことも多いので,すれ違う人のバッジをよく見てみるのも面白いかもしれません。

 

弁護士 横尾和也

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訴訟費用(刑事編)

6 月 2nd, 2011

刑事訴訟の費用は,民事訴訟とは違って裁判所に納める申立手数料というものがなく,証人の旅費・日当,鑑定人や通訳人の費用,国選弁護人の報酬くらいのものだ(刑事訴訟費用等に関する法律2条)。

 

証人の旅費・日当は,裁判所の管轄地域に住んでいる人であれば,4000円~5000円くらいになるようだ。

国選弁護人の報酬は,手続きの種類,出頭日数によって額に差が設けられており,さらに,被告人が保釈されたか,示談が成立したか等,弁護人が一定の成果を上げれば報酬が加算される。

 

そして,訴訟費用は,有罪になってしまった場合,原則として被告人が負担することになっており(刑事訴訟法181条本文),訴訟費用を負担させる場合は,その旨判決で言い渡されることになっている(刑事訴訟法185条)。

つまり,判決の際,裁判官から「訴訟費用は被告人の負担とする。」と言い渡された場合,訴訟費用を負担しなければならないことになるのだが,実は,費用負担の判決が出ることは滅多にない。
というのは,刑事訴訟法181条の但書で,「被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは,この限りでない。」と規定されており,国選弁護人がついているような事件では,たいていがこれにあたってしまうからだ。
被告人が貧困でないときは私選弁護人をつけることが多いし,その場合は弁護士費用が訴訟費用に含まれないから,せいぜい証人の旅費・日当がかかるくらいだが,被告人側で用意した情状証人の場合はたいてい旅費・日当を放棄するので,結局負担させる訴訟費用がないか,ほとんどないということで,費用負担の判決を出すまでもないということになるのだろう。

 

私の経験では,多重債務状態に陥って業務上横領を犯してしまった被告人(Aさんと呼ぶことにする。)に国選弁護人としてついた事件で費用負担の判決が出たことがある。利息制限法上の制限利息で引き直し計算をすると,過払金がかなり出たこともあり,被害者との示談が成立し,保釈もできた事案だった。
なんとか執行猶予付きの判決が出たのだが,過払金がかなり出たことを情状(再犯の可能性がない)として主張したことが影響してしまったのか,費用負担を命じられた。後になってAさんに聞いたところによると,裁判所から20万円弱の請求が来たようだ。なお,費用負担の判決が出た場合,判決確定後20日以内に訴訟費用執行免除の申立てが出来ることになっている(刑事訴訟法500条)。Aさんは,過払金が出たとはいえ,一度にそれだけのお金を払うのは大変なので,訴訟費用執行免除の申立てをしたと言っていた。

 

弁護士 横尾和也

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