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海外の財産に対する強制執行

11 月 26th, 2016

日本よりも物価の安い東南アジア等でインフラが整備されてきたためか,日本国内のみならず,海外にも生活の拠点を持つ日本人も珍しくなくなってきたと感じる。
中には,国内でやらかした人が海外に逃亡(?)していることもあるようで,「海外に移住してしまった相手の海外の財産に対して差押え(強制執行)することはできますか?」という相談を受けることがある。

海外在住の相手であっても,民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは,特別の事情がない限りは日本で民事訴訟を提起することができる(民事訴訟法3条の9参照)。財産権上の訴え等については日本のどこかの裁判所に管轄が認められるはずである(民事訴訟法5条各号)。
海外在住の相手に対する訴状の送達については前のブログに書いているので繰り返さないが,問題は,送達が上手くいって勝訴判決を得たとしても,海外の財産に対してそのまま強制執行することはできず,当該国の裁判所で「判決の承認」という手続きを取らなければならないという点にある。

日本では,外国裁判所の確定判決は民事訴訟法118条各号に定める要件を全て満たしている場合に限って効力が認められており,例えば,アメリカでの懲罰的損害賠償を認める判決は同三号を具備しないとされ(最高裁判所平成9年7月11日判決),中国での判決は同四号(「相互の保証があること」)を具備しないとされる(大阪高等裁判所平成15年4月9日判決)。これらの点をクリアしたうえで,日本の裁判所で民事執行法24条に定める「執行判決を求める訴え」を別に提起して,ようやく強制執行が可能となる。
日本の裁判所の確定判決もこれとパラレルに考えればよい。

「相互の保証」がない国の場合どうなるのか?というと,残念ながら,日本で確定判決を得たとしても,効力が認められないため,強制執行はできないということになる。
このような場合であっても,ニューヨーク条約に加盟している国(中国や東南アジアのほとんどの国は加盟している)であれば,国際商事仲裁手続を利用するという方法がある。契約書等に「この契約からまたはこの契約に関連して,当事者の間に生ずることがあるすべての紛争,論争または意見の相違は,一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って,日本国大阪において仲裁により最終的に解決されるものとする。」,「仲裁手続に用いる言語を日本語とすること及び仲裁判断において準拠すべき法を日本法とすることを合意する。」といった内容を記載する等してあらかじめ仲裁合意をしておく必要はあるが,手続きを全て日本語で,大阪で済ませることが可能である。
ただ,管理料金,仲裁人費用がそれなりの額必要となるのが難点といえる。

結局,判決,仲裁判断のいずれを得るルートであっても,当該国で強制執行の手続きをとる段階で,外国の弁護士に依頼せざるを得ず,外国語でのコミュニケーションが必要となってしまう。海外の財産への強制執行を受任するのであれば,信頼できる海外の弁護士との関係を構築しておくことも必須であろう。

弁護士 横尾和也

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国際弁護士とはいえないが・・・(3)不動産所有権の取得時効

11 月 26th, 2016

相続時に相続人間で協議がまとまらなかった,その存在が相続人に知られていなかった等の理由から,不動産登記簿上,故人の名義のまま放置されている不動産に関する相談(同様のケースは,故人が生前に第三者に不動産を売却したが,何らかの理由で所有権移転登記手続がなされなかった場合にも起こる)が持ち込まれることがある。
当該不動産を売却する場合,買主から,所有権の名義人をいったん売主の名義にすることを要求されることが通常である。しかし,何十年以上も放置されているうちに(子の代から孫の代となり)故人の相続人が20人,30人になっていることもあり,売主は,あちこちに散らばっている相続人全員と話をしなければならないことになって,非常に煩雑である。
中には,売主に所有権の名義を移すことに対し,すんなりと協力してくれない相続人がいることも考えられる。

もし売主が当該不動産に居住する等して占有しており,20年以上他の誰からも権利を主張されていない場合には,所有権の取得時効(民法162条1項)を主張して他の相続人全員に対して民事訴訟を起こし,勝訴判決に基づいて所有権移転登記手続をする方法がある。相続人の中に全く知らない人がいる場合には,こちらの方がスムーズに行くかもしれない。
この方法を取る場合であっても,いきなり裁判所から訴状が届くとびっくりする方もいるので,あらかじめ,電話や手紙で連絡を取り,不動産登記簿の名義人を変更するために訴訟を提起することになったこと等の経緯を説明するとともに,協力をお願いしておいた方が良い。その際,「判決では訴訟費用の負担を命じられるが,こちらからは請求しないので事実上は支払わずに済む(裁判所からは請求が行かない)ので安心して下さい。」等と説明すると,当該不動産に対して興味のない人が大半なので,協力してもらえることが多い。
相続人の調査は,戸籍謄本,除籍謄本,改製原戸籍を取得して行うところ,引っ越した後住民票を移していなかった等の理由から戸籍の附票に記載されている住所に訴状が送達できない場合があって難儀することがあるのだが,あらかじめ協力を要請しておくと,他の相続人からその所在を教えてもらえることがある。

「国際弁護士~のタイトルが今回の話にどう関わってくるのか」って?
察しの良い人はお分かりであろう。そう,相続人は「あちこちに散らばっている」のである。「あちこち」とは,「世界中に」という意味である。
海外に移住してしまった相続人の戸籍の附票を取得しても,「【住所】アメリカ合衆国」等としか書かれておらず,他の相続人からの協力でもない限り,所在を突き止めるのは不可能といってよい。
所在をうまく突き止められたとしても,海外で出生した相続人は日本語を解しないことも多く,上述の協力をお願いする文書をその国の言語で作成する必要も出てくる。
訴状の送達は領事送達や中央当局送達等という特別な方法となり,送達までにかなりの時間を要する。中央当局送達の場合,送る文書の翻訳文を用意する必要もある。

このように,渉外事件を大々的に扱っていない法律事務所であっても,事件処理のために外国語を駆使しなければならないケースがある。
「そんなときは,翻訳業者に頼めば良いのでは?」という意見もあるだろうが,外注だとコストと時間がかかるという問題がある(結局,翻訳してもらった文章が正確に訳されているかどうかをチェックする必要もある)し,「弁護士とスカイプで直接話したい」という海外の方もいたりして,いつまでも「日本語しか分からない」では済ませられないなぁと思っているところです。

弁護士 横尾和也

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