日本よりも物価の安い東南アジア等でインフラが整備されてきたためか,日本国内のみならず,海外にも生活の拠点を持つ日本人も珍しくなくなってきたと感じる。
中には,国内でやらかした人が海外に逃亡(?)していることもあるようで,「海外に移住してしまった相手の海外の財産に対して差押え(強制執行)することはできますか?」という相談を受けることがある。
海外在住の相手であっても,民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは,特別の事情がない限りは日本で民事訴訟を提起することができる(民事訴訟法3条の9参照)。財産権上の訴え等については日本のどこかの裁判所に管轄が認められるはずである(民事訴訟法5条各号)。
海外在住の相手に対する訴状の送達については前のブログに書いているので繰り返さないが,問題は,送達が上手くいって勝訴判決を得たとしても,海外の財産に対してそのまま強制執行することはできず,当該国の裁判所で「判決の承認」という手続きを取らなければならないという点にある。
日本では,外国裁判所の確定判決は民事訴訟法118条各号に定める要件を全て満たしている場合に限って効力が認められており,例えば,アメリカでの懲罰的損害賠償を認める判決は同三号を具備しないとされ(最高裁判所平成9年7月11日判決),中国での判決は同四号(「相互の保証があること」)を具備しないとされる(大阪高等裁判所平成15年4月9日判決)。これらの点をクリアしたうえで,日本の裁判所で民事執行法24条に定める「執行判決を求める訴え」を別に提起して,ようやく強制執行が可能となる。
日本の裁判所の確定判決もこれとパラレルに考えればよい。
「相互の保証」がない国の場合どうなるのか?というと,残念ながら,日本で確定判決を得たとしても,効力が認められないため,強制執行はできないということになる。
このような場合であっても,ニューヨーク条約に加盟している国(中国や東南アジアのほとんどの国は加盟している)であれば,国際商事仲裁手続を利用するという方法がある。契約書等に「この契約からまたはこの契約に関連して,当事者の間に生ずることがあるすべての紛争,論争または意見の相違は,一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って,日本国大阪において仲裁により最終的に解決されるものとする。」,「仲裁手続に用いる言語を日本語とすること及び仲裁判断において準拠すべき法を日本法とすることを合意する。」といった内容を記載する等してあらかじめ仲裁合意をしておく必要はあるが,手続きを全て日本語で,大阪で済ませることが可能である。
ただ,管理料金,仲裁人費用がそれなりの額必要となるのが難点といえる。
結局,判決,仲裁判断のいずれを得るルートであっても,当該国で強制執行の手続きをとる段階で,外国の弁護士に依頼せざるを得ず,外国語でのコミュニケーションが必要となってしまう。海外の財産への強制執行を受任するのであれば,信頼できる海外の弁護士との関係を構築しておくことも必須であろう。
弁護士 横尾和也