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建物明渡の強制執行

1 月 25th, 2012

店子が家賃を数か月分滞納しているにもかかわらず支払いをしようとせず,また,賃貸物件からも出て行こうとしないとき,家主は賃貸借契約を解除し,店子に対して建物明渡を請求することが出来る。

ちなみに,店子が賃料を滞納することはあっても数ヵ月後には滞納を解消している等,家主と店子の信頼関係がいまだ破壊されるに至っていない場合は,家主から賃貸借契約を解除することが制限されており,これは「信頼関係破壊の法理」と呼ばれている。

 

契約解除を通告しても店子が任意に賃貸物件から出て行ってくれない場合,建物明渡請求訴訟(ついでに滞納賃料と明渡までの賃料相当損害金の請求も行う)を提起して明渡認容の判決を取り,判決に基づいて強制執行しなければならない。判決に基づかない「自力執行(じりきしっこう)」は法が禁じており,店子から不法行為に基づく損害賠償を請求されたり,店子の所有物を無断で処分すれば窃盗罪に問われる虞がある。

訴訟を提起すると,被告となった店子が裁判所に出頭し,裁判所での話合い等の結果,任意に出て行ってくれることもあるが,店子から,出て行く際に残置物について所有権を放棄してもらい,鍵の引渡しを受け,完全に明渡を完了した旨の念書等を取った場合でなければ,費用はかかるが,後々店子から残置物を無断で処分された等の言いがかりをつけられないように,裁判所を通じた強制執行の手続を取っておいた方が良い。

 

強制執行のために執行官とともに賃貸物件に赴くと,たいてい家財道具がそのまま置かれている。中には,ゴミ屋敷と呼べる状態になっていることもあり,残置物の撤去,処分,(物によっては)保管の費用がかかる。強制執行にかかる費用は,民事執行法42条1項で店子の負担となるのが法の建前だが,実際には家主が立て替える形で負担することとなってしまう。かかる費用のイメージとしては引越しの費用(トラック,人工)に執行官立会い費用(5~7万円程度)が加わる感じだ。残置物が多い場合,大きな物がある場合や金庫等開錠の手間がかかる(鍵屋さんに来て貰わなければならなくなる)場合,50万円を超えてしまうこともある。

 

1度目に立ち入った場合は予告だけを行い(ドアを開けて入ったあたりの見やすい場所に予告書を掲示する),3~4週間の期間を置いた後に2度目の立ち入りを行い,明渡を「断行」する。予告の際にすでに「がらんどう」の状態で,店子が明渡したことが明らかな場合,その時点で断行まで完了したことにすることもある。

断行が完了したら,鍵は違うものに代えておいた方が良い。同じ鍵をそのまま使用して店子が持っていた鍵で断行後の物件を再度占有した場合,住居(建造物)侵入の刑事事件にはなるが,民事的には,明渡訴訟をもう一度やり直さなくてはならなくなる。

 

残置物の中から現金が見つかることがあるが,店子が(法人ではなく)個人の場合,現金66万円までは差押禁止財産となるので,動産執行して滞納家賃に充当することができないのが歯がゆいところだ。

撤去した残置物は,店子に取りにくるよう連絡するが,連絡がつかなかったり,取りに来なかった場合は換価価値のあるものは競売し,保管費用や(価値のないものの)処分費用と相殺することになる。おおむね2万円以上の換価価値がないと見込まれる場合,競売費用の方が高くついてしまうため,処分することになるようだ。

 

弁護士 横尾和也

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