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相続クーデターにご用心

12 月 23rd, 2013

皆さんの中に,相続クーデターという言葉を聞いたことがある人はいるだろうか。
簡単にいえば,ファミリービジネスの非公開会社で相続時に起こりうる「乗っ取り」のことだ。

株主の個性が問題となる小規模の会社では,たいてい定款に株式の譲渡制限を規定している。
会社法は,すべての種類の株式について譲渡制限のある会社以外を公開会社と定義している(会社法2条5号)。すべての株式に譲渡制限があって,株主構成が変化しにくい会社が非公開会社という訳だ。
ファミリービジネスという言葉は,経済産業省のウェブサイト(http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/nipponsaikoh/family.html)上に定義らしきものがあるが,ここでは,創業者一族が経営の主体となっている会社という程度で,法人税法上の「同族会社」(上位3株主の持ち株比率があわせて50%を超える会社)とは区別する意味で使用していることをあらかじめお断りしておきたい。

典型的なファミリービジネス企業では,社長とその相続人が過半数ないし2/3以上の割合の株式を保有していることが多いのではないだろうか。
このような会社が非公開会社の場合,たいてい定款で会社法174条の「相続人等に対する株式の売渡請求」が定められている。
定款に株式の譲渡制限を規定していても相続による株式の移転は防ぐことができないが,この規定を設けることによって,相続による株式の分散を防止することができる。確かに便利な規定であり,市販されている非公開会社のモデル定款には殆どこの規定が記載されている。
しかし,この規定には落とし穴がある。

相続クーデターが起こる仕組みを,以下のような具体例で示してみたい。
創業者の代表取締役Aが60%,後継者であり創業者の唯一の相続人である取締役Bが10%,取締役Cが30%の株式を保有している会社で,Aが死亡したとしよう。
一見,株主構成が安定しており,滞りなく後継者Bに経営権が承継されていくように思える。 しかし,ここで,Cが臨時株主総会を招集し,この総会において,会社法176条の規定に基づき,Bに対して株式の売渡請求を行ったとしたら,どのようなことが起こるだろうか。 
この総会では,Bは議決権を行使できない(会社法175条2項)。Bの議決権は相続した分以外の,もともと保有していたものまで行使できないとされている。したがって,Cが売渡請求に賛成すれば特別決議が可決されてしまう。会社はCの思うがままになり,乗っ取りが成功する。Aにかけていた死亡保険金をBからの株式買取の資金に使い,Aへの死亡退職金を非常に少ない額で決定することも可能になってしまう。

いろいろと対策はあるが,もっとも簡単なものは,遺言で株式の承継者を定めておくという方法だ。
会社法174条の規定は「相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し」となっているので,Aの株式をBに遺贈すれば(特定承継になるから)会社法174条の適用はない。但し,株式の遺贈の場合はその代わりに会社法137条の手続きによる譲渡承認が必要となる。

相続クーデター対策として遺言を用いる場合の注意点を最後に述べておきたい。
市販されている遺言書のサンプルには,「~を相続させる。」という文言が記載されていることがある。これは,「相続させる旨の遺言」というもので,遺産分割方法の指定であり,遺贈とは区別される。遺贈で不動産を承継した場合,所有権移転登記には受遺者である相続人と遺贈義務者である他の相続人全員との共同申請が必要である一方,相続させる旨の遺言で承継した相続人は,単独で相続登記ができるし,登記申請を遺言執行者と共に申請する必要もなく(最判平成7年1月24日判時1523号81頁),登記なくして第三者に対抗できる(最判平成14年6月10日判時1791号59頁)というメリットがある(平成15年4月1日までは,不動産登記にかかる登録免許税の税率が遺贈で1000分の25,相続は1000分の6で節税効果があったが,現在は同じ税率になったため節税の意味はない)ために多用されている。
しかし,「相続させる旨の遺言」の法的性質は上記のとおり,遺産分割の指定であるから,相続人は当該遺産を一般承継する。株式を遺贈すべきところを,遺言書のサンプルのとおりに「相続させる」と記載すると,一般承継となってしまい,会社法174条が適用される(株式売渡請求の対象となる)ことになってしまうので,要注意だ。

弁護士 横尾和也

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