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窃盗症の刑事弁護

12 月 3rd, 2016

窃盗を繰り返して公判請求されてしまった被告人の中には,何らかの精神的な異常が原因で盗みを止めたくても止められなくなってしまっているのではないかと感じられる人がいる。
アメリカ精神医学会(APA)が作成している「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の第5版(DSM-5。2013年5月18日出版)には精神疾患の一つとして「窃盗症」が挙げられており,以下の5つの診断基準が示されている(日本語訳はタイトル「精神障害/疾患の診断・統計マニュアル」として2014年6月30日に出版されている)。
①個人的に用いるのでもなく,またはその金銭的価値のためでもなく,物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
②窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
③窃盗を犯すときの快感,満足,または解放感。
④盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく,妄想または幻覚に反応したものでもない。
⑤盗みは,行為障害,躁病エピソード,または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

窃盗症の患者を多数受け入れ,その治療を専門に行う赤城高原ホスピタル(群馬県渋川市)の竹村道夫院長によれば,「物を盗む衝動を抑えきれなくなる精神疾患であり,生活苦や職業的な理由から犯行に及ぶケースとは異なる。刑務所で服役して反省すれば改善するものではない」「患者には医師や公務員もいる。経済的に苦しい状況ではないのに,逮捕などのリスクに見合わない窃盗を繰り返す」という。
女性では摂食障害と合併して起こることがあり,万引きした商品や食料品を使ったり食べたりする訳でもなく,自宅にため込んだりしているのも特徴である。

このような被告人に対する弁護活動は,「刑務所での労役よりも,精神医学療法による治療こそが再犯防止のためにふさわしい」と主張するというものだが,「今回の件で逮捕されたことをきっかけに,治療を始めたいので保釈を・・・」という方針では裁判官になかなか受け入れてもらえない。
私の経験したものでは,摂食障害の女性の案件で,執行猶予中の犯行であったこともあって一審では実刑判決となったものの,控訴審では原審判決が破棄となり再度の執行猶予判決(保護観察付き)が言い渡されたものがある。このケースでは,前回の事件後,毎月欠かさず精神病院に通って摂食障害の治療を受けるとともに,主治医のもとで生活指導を受け,買い物には親族が同行する等の再犯予防策が講じられていたが,親族が怪我をしたために一緒に買い物に行くことができなくなったうちに犯行に及んでおり,経緯に同情の余地があった。

赤城高原ホスピタルでは,自らの過去や犯歴を告白したり相談したりすることで,考え方のゆがみを直す認知療法が主体に行われている。
おそらく入所者の治療プログラムの一環であろうと思われるが,私が(上記の方とは別の)弁護を担当した方の家族と一緒にホスピタルに伺った際にも,入所中のいろいろな方(女性ばかりであった)から話を聞かせていただく機会があった。話を聞いていると,根は非常に真面目な人たちばかりであり(中には立派な職歴をお持ちの方もいた),やはり生活苦や換金目的で窃盗を犯す人とは違う気がした。
私があの時ホスピタルを訪れてから1年10か月が経った。話を聞いた彼女らが無事ホスピタルを退院し,二度と窃盗を犯すことなく幸せな生活を送っていることを願っている。

弁護士 横尾和也

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